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『桜の花』

Director or Art reporter

八塩 護一
 (小説「桜の花」近代文芸社出版)

uniformity of nature



八塩護一《桜の花》

入梅の日、お前は、すっかり茂らせた青葉を、優しい微風の戯れに、小さく踊らせたり。ゆうつとも思える、雨の日も、青葉いっぱいの水映えを耀かし、緑色の苔を着飾り。つい、この間、緑や赤や紫色の実は、甘酸っぱさを辺りに漂わせ、野鳥を惹きつけて放さなかった。野鳥の多種の高いさえずりは、楽しさも放さない。夏の日は、短く茂みの中で、蝉の音も短かった。もう、お前には、秋が近づいて、虫の音も聞こえてきた。


石ころの勾配を登った、高台のお前の所へ駆けた、すっかり秋深い陽光に、辺りの恋着くの落ち葉は、黄金で満ちた絨毯で映える、サクサクと音を立てて歩く、晩秋の回想。年輪を越え、新芽や根魂は大地を張る、常に不変なる凛々しさは神秘に満ち、思考と凝視、暗黒や虚偽も騙さない、寒風は吹き荒涼と、枝木は風笛と萎える、襟を立てて歩く、厳冬の瞑想。柔らかい陽射しで、若草は萌え咲き誇る、満開の桜。春風と恋恋の桜吹雪は抱擁し、淡紅色の花びらで、一面敷きつめた耽美な妖精、音も無く歩く、陽春の夢想。

八塩護一《桜の花》

八塩護一《桜の花》

自然界の悪戯か、悠悠と、お前もまた長い長い酷暑の風、新緑葉を重ね、なびかせ、蝉時雨と幹を守り、盛夏の日を越えた。寂しさが迫りくる日々、涼秋の風、枝木からは金色の枯葉、一枚づつ落ち葉は舞い、すつかり枯れ枝木となったお前、刻々と愁思、晩秋の日は去り。凛凛とした中からも見える、躍動する樹血、霊木、天を仰ぐ生枝、芽吹き耽耽と厳寒の冬日。深閑、陽溜りは益々、もう直ぐ蕾はふくらみ希望と爛漫、花咲く日、爛漫の日、天地は巡る。


お前は、とうとう姿を見せなかった、暗闇の中で目を凝らした、見えない、桜精霊の微風、微かな響き、私の嗅覚や膚は全てを敏感に受け止める、老いは来ていない、まだ未だだ、戦える、お前は、すっかり雑木になったのか、見せろ静かな花舞を、桜吹雪を、そして何時かの様に包んでおくれ、青葉の季節に向かえても、お前の姿は何処にも無い、雑木、雑木だ野鳥も姿を見せない、カラスども黒いカラスの群れ、現れ出てきて夜叉王が、暗黒を打ち破れ、小さな光に向かって進めば良い、幸運の道だ。

八塩護一《桜の花》

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